第78回 耳鼻咽頭科臨床学会 総会・学術講演会

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前頸部の疼痛を伴う急速な腫脹をきたす疾病には甲状腺未分化癌や頸部膿瘍などきわめて早期の診断および治療が求められるものが多い.特に頸部膿瘍はその位置によっては降下性縦隔炎に至り致死的となるリスクが高く,超急性期の治療が求められる.今回我々は前頸部の疼痛を伴う発赤腫脹が,胸鎖関節偽痛風というきわめて稀な疾病であった1例を経験したのでこれを報告する.
症例は80代男性で一週間前よりの前頸部痛を主訴に当科受診.初診時に下頸部前面の発赤腫脹を認め,自発痛とともに著明な圧痛を認めた.超音波ガイド下に穿刺したが明らかな膿汁は引けなかったため,頸部炎症性疾患あるいは甲状腺未分化癌を疑い即日緊急入院とした.抗生剤および鎮痛剤の投与により症状は軽減されてきたが,初診時の細胞診で腫瘍細胞を検出せず,細菌培養も陰性であったこと,体動により疼痛が増強することから関節疾患を疑い入院6日目に整形外科受診.胸肋関節部の関節穿刺でピロリン酸カルシウムを検出した.翌日には前頸部の腫脹部より再度穿刺し,やはりピロリン酸カルシウムを検出したため,偽痛風および胸鎖関節炎と診断.さらに後日,穿刺液から遅発育性の緑色連鎖球菌が検出されたため,13病日に切開排膿手術を施行した.術後,頸部の腫脹は徐々に改善し疼痛も減退していたが,35病日に心窩部違和感を自覚し,慢性心不全をきたしていたため同治療目的に入院を継続した.
胸鎖関節に偽痛風が発生することはきわめて稀で渉猟しえた限りでは2例の報告のみであった.前頸部下部は様々な臓器,組織が存在するためそこに発生する疾病は非常に多岐にわたる.それ故,診断に難渋する際には種々の疾病の可能性を考慮し,広く知見を求める姿勢が必要であると考えられた.

2016/06/23 17:30〜18:12 P11群

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