第78回 耳鼻咽頭科臨床学会 総会・学術講演会

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【緒言】両側聴覚野に障害が生じると中枢性聴覚障害を呈し,言語音や環境音の認知障害などをきたすことが知られている.今回我々は,両側の側頭葉脳梗塞により語音聾をきたした1例を経験したので報告する.
【症例】症例は43歳男性,右利き.看護師をしていた.肥満に加えて既往歴に糖尿病と右側頭葉脳梗塞があり,さらに右前頭葉脳動脈奇形術後でもあるが,聴覚障害などは自覚していなかった.前日夜より家族の声かけに反応なく,意思疎通困難となった.翌日になっても改善しないため当院を受診したところ,発語はあるものの指示が入りにくくMRI拡散強調像で左側頭葉に高信号域が認められたため,急性期脳梗塞と診断され入院となった.意識清明で移動や食事は自立しており,自発語も流暢で構音障害は認められなかったが,言葉を聞いても理解できなかった.コミュニケーションは,表出は自発語と右手の書字によって行い,理解は相手の書字によって可能で失読はなかった.一方,環境音に対する認識は概ね良好であった.純音聴力検査では右31.3 dB,左20.0 dBと正常で,両耳とも最小可聴閾値の変動はわずかであった.語音聴力検査における最高語音明瞭度は左右とも0%(70 dB)であった.ABRでは,左右ともI~V波まで波形の異常や潜時の延長はみられなかった.
【結語】語聾についてFranklinはさらに語音聾(word-sound deafness),語形聾(word-form deafness),語義聾(word-meaning deafness)に分類している.本症例は,純音聴力は正常であるにもかかわらず語音聴力検査の成績は不良であり,さらに非言語の認知は比較的良好であることから,語音聾に相当すると考えられた.経過観察中に語音聴取能が改善したという報告もあるため,今後も慎重に検査を行う必要があると考えられる.

2016/06/23 18:06〜18:36 P10群

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