第78回 耳鼻咽頭科臨床学会 総会・学術講演会

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【はじめに】高安動脈炎(以下,TA)は20代から30代女性に好発する原因不明の非特異的大型血管炎である.発熱,全身倦怠感といった血管炎症候群に共通した症状に引き続き,狭窄ないし閉塞をきたした動脈の支配臓器の虚血症状を呈する.しばしば難聴を伴うが,その発症機序は不明である.難聴は両側性でステロイド投与に反応して変動を認める症例が多いが,ときに急性高度難聴として発症し聾となることがある.今回我々はTA診断からおよそ1年の経過で両側聾となり,難聴増悪の急性期にMRI FLAIR画像にて内耳に著明な高信号を認めた症例を経験したので報告する.
【症例】TAの診断を受けていた45歳女性.TA診断の半年後から左変動性難聴とめまいが出現し,近医にて左メニエール病として加療されていた.TA診断からおよそ1年経過した頃に突然,両難聴とめまいが出現し当科紹介受診となった.純音聴力検査では両側スケールアウト,聴性脳幹反応検査では105 dBnHLのクリック刺激にて反応を認めなかった.両難聴出現8日目に施行した内耳MRIでは,両側内耳はT1強調にて低信号,T2強調にて高信号,FLAIRでは両側内耳,特に左に著明な高信号を認めた.ステロイド治療,高気圧酸素治療を施行するも聴力は改善せず,人工内耳手術を予定している.
【考察】Nomuraら(Auris Nasus Larynx 1979)は両側高音急墜型の感音難聴を示したTA症例の側頭骨において,迷路動脈にも蝸牛内の血管にも血管炎の所見を認めなかったと報告している.渉猟し得た限りTAに伴う急性高度難聴急性期の内耳MRI FLAIR所見の報告はないが,Sugiuraら(Larngoscope 2006)は突発性難聴の急性期に3D-FLAIR MRIにて内耳に高信号を認める症例があることを報告している.本症例のMRI所見から,TAに合併した急性高度難聴の内耳病態として,出血,または血液迷路関門の破綻により進入した,もしくは破壊された細胞由来のタンパク質濃度上昇の存在が示唆された.

2016/06/23 18:06〜18:36 P10群

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