感音難聴の診断において自覚症状と聴力検査の結果が乖離する場合,機能性難聴の鑑別が必要である.今回,機能性難聴を疑い,他覚的検査を行うことで診断が可能であった多発性海綿状血管腫により後迷路性難聴を呈した1例について報告する.
症例は38歳女性.X年Y月Z日左難聴・耳鳴症状が出現し,近医を受診された.左突発性難聴の診断にてステロイド内服加療により自覚的症状は改善していたが,聴力検査上変動を認めたため,難聴精査加療目的に2週間後に当院紹介受診された.来院時,純音聴力検査で右33.8 dB 左全音域でscale outであり,自覚症状と聴力検査の乖離を認めたためDPOAEを施行したところ,両耳とも良好な反応を認めた.この結果機能性難聴を疑ったが,後迷路性難聴を鑑別するため,ABRを施行した結果,左耳は105 dB刺激において1波より波形分離不能であり,聴神経より中枢の障害と考えられた.頭部単純MRI検査にて脳実質内外に多発する様々な信号強度の腫瘤影を認め,多発性海綿状血管腫と診断した.左小脳橋角部~内耳道口の腫瘤には小出血を認め,内耳道内の腫瘤が今回の急性感音難聴の責任病変と考えた.
本症例の感音難聴はDPOAEが正常で,ABRで左耳は波形消失を認めたことから,機能性難聴ではなく,後迷路性難聴であると考えた.最終診断は頭部MRIで行ったが,急性感音難聴の原因鑑別に他覚的機能検査としてDPOAE,ABRが有用であった.また,多発性海綿状血管腫について文献的な考察も加え報告する.
2016/06/23 18:06〜18:36 P10群