第78回 耳鼻咽頭科臨床学会 総会・学術講演会

プログラム

No

タイトル

耳鳴の治療戦略として,「神経生理学的モデル」に立脚した,「指示的カウンセリング」と「音響療法」を組み合わせて行うTinnitus retraining therapy(TRT)が1990年Jastreboffらにより提唱された.耳鳴の中枢発生説から発展させた考え方であるが,脳機能検査など一連の研究成果からこのモデルを強化・修正したものが,2013年日本耳鼻咽喉科学会の宿題報告で当教室が提唱した「耳鳴苦痛モデル」である.このモデルは,聴覚路と非聴覚路(うつ,不安,注意,認知,記憶)の苦痛ネットワークとの神経同期により耳鳴が発生・悪化することを臨床的に説明している.このモデルに基づいた耳鳴治療のターゲットは,耳鳴の発生している聴覚路および耳鳴を悪化させる苦痛ネットワークであり,治療の主力はTRT同様,「音響療法」と「指示的カウンセリング」である.なかでも,難聴を合併した耳鳴患者に対する「音響療法」の中心に補聴器を位置づけたのが特徴といえる.近年,難聴を伴う耳鳴患者に対する音響療法として,補聴器を使用した耳鳴治療の有効性が多数報告されている.「耳鳴苦痛モデル」に基づいた耳鳴治療を行ううえで,補聴器の確認・調整と耳鳴診療を同時に行うことが必要になることが多いため,難聴耳鳴専門外来を設けて対応することが理想的であるが,市中病院での環境整備は容易ではない.一般外来診療のなかで十分な指示的カウンセリングを行うことは時間的な制約から困難であり,多くの病院で耳鳴診療を敬遠する傾向があるのは事実であろう.当院では「耳鳴苦痛モデル」に基づいた耳鳴治療を行っているが,重症患者には週1回午後に設置した難聴耳鳴専門外来で時間をかけて対応し,中等症・軽症患者には一般外来診療の中で対応していることも多い.本報告では,耳鼻咽喉科医2名体制の市中病院における耳鳴治療の現状と問題点について検討し報告する.

2016/06/23 17:30〜18:06 P9群

操作