第78回 耳鼻咽頭科臨床学会 総会・学術講演会

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聴器癌の発生頻度は低く,100万人に1人もしくは頭頸部癌の1%未満といわれている.そのなかでも中耳癌の発生頻度はさらに低い.今回我々は最近1年間で進行中耳扁平上皮癌症例を2例経験したので,その臨床的・疫学的特徴などとともに報告する.
症例1は70歳女性.2ヵ月前より左耳痛,耳漏,難聴を認め,近医耳鼻咽喉科で外耳道炎の治療を受けたが,改善しなかった.1週間前より左顔面神経麻痺が出現し,当院に紹介受診となった.左外耳道前壁を中心に腫脹を認め,側頭骨単純CTでは上鼓室顔面神経膝神経節付近を中心に骨破壊を伴う軟部陰影が認められた.またGd造影MRIでは一部硬膜も増強された.外耳道から生検すると扁平上皮癌と診断がついた(cT4N0M0).こちらに対し,術前化学療法としてTCFを2クール行い,側頭骨亜全摘術および耳下腺全摘術を施行した.切除断端は陰性であった.現在術後8ヵ月が経過し,再発・転移所見は認めていない.
症例2は95歳女性.1ヵ月前より右耳漏・耳痛を認め,近医耳鼻咽喉科で外耳道炎の治療を受けるも改善せず,耳内に充満する腫瘍性病変を認めたため,当院へ紹介受診となった.両側慢性中耳炎の既往があり,もともと両側聾であった.側頭骨CTでは広範に中頭蓋窩を破壊し,脳実質を圧排する軟部陰影を認めた.内耳骨包も破壊されていた.耳内より腫瘍を生検すると扁平上皮癌と診断された(cT4N0MX).根治的な治療の適応はないと考えられ,緩和医療を行う方針となった.
本邦の過去の聴器癌に関する文献をあたってみると,観察期間が2000年以降の研究では中耳癌の報告が激減していることがわかった.これは中耳癌の原因として慢性中耳炎の既往が指摘されているが,厚生労働省の患者調査データによると中耳炎(急性,慢性)の総計患者数は1987年に106200人であったが2002年には45200人まで減少している.慢性中耳炎の患者数が減少していることが原因の1つではないかと考えられた.

2016/06/23 18:00〜18:36 P8群

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