第78回 耳鼻咽頭科臨床学会 総会・学術講演会

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解剖学的理由により化膿性顎関節炎の頻度は稀とされている.我々は中耳炎により化膿性顎関節炎を来し,さらには硬膜外膿瘍に至った症例を経験したので報告する.
症例は33歳女性.既往歴・家族歴に特記事項なし.初診1ヵ月前に右中耳炎の診断で近医耳鼻咽喉科にて,内服加療と鼓膜切開を施行されていた.初診3日前より右耳前部の疼痛・腫脹と発熱が出現し精査加療目的に当科紹介受診した.初診時,右鼓膜の発赤と混濁を認めた.右耳前部に発赤圧痛を伴う腫脹を認め,開口は5 mmと制限されていた.顔面神経麻痺や項部硬直は認めなかった.CTでは右顎関節腔の拡大と関節包頭側の錐体尖部に骨破壊を認めた.MRIでは右中耳腔や乳突蜂巣内に液貯留が認められた.CTで指摘された骨破壊に対応する部位の硬膜は著明に肥厚し頭蓋内へ膿瘍が拡大していると考えられた.そのほか,側頭筋内側の膿瘍形成と咀嚼筋間隙への炎症波及を認めた.右中耳炎から化膿性顎関節炎を来し,その炎症により錐体尖部の骨が破壊され硬膜外膿瘍にまで至ったと考えた.同日,口腔外科にて18 G針を用いて右顎関節腔穿刺を行い4 mlの膿汁が吸引できた.その後,生理食塩水でパンピングを施行し関節腔内の洗浄を行った.穿刺液のグラム染色で細菌は確認できなかった.腰椎穿刺を施行したが,髄膜炎を疑う所見は得られなかった.起炎菌の同定には至らずエンピリック治療として,メロペネムを髄膜炎量の1日6 gで開始した.第4病日,前医で施行された耳漏の培養結果で中耳炎の起炎菌はペニシリン感受性肺炎球菌であったことがわかったのでスルバクシン1日6 gにde-escalationした.第7病日のMRIでは硬膜外膿瘍の拡大はなく,周囲の炎症所見も改善を認めた.開口障害も徐々に改善し第15病日に退院した.退院2ヵ月後のCTでは錐体尖部の骨欠損部に骨新生が認められ,開口障害もほとんど残存なく改善した.
本症例に対して文献的考察を加えて報告する.

2016/06/23 17:30〜18:00 P7群

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