低音部に聴力の残存がある,高音急墜型の感音難聴では補聴器を装用しても良好な聴取能が得られない場合が多く,人工内耳の適応にもならないため治療に苦慮することが多い.このような症例に対する治療法として,低音部分を補聴器と同様に音響刺激で行い,高音部分を人工内耳で電気刺激する「残存聴力活用型人工内耳(EAS electric acoustic stimulation)」が欧米で開発された.今回我々の施設でEASを施行した2症例について報告する.
症例1:53歳女性.5歳時にムンプスにより右耳失聴.その後徐々に左耳高音の聴力悪化を自覚.左耳に残存聴力あり人工内耳の適応ではなかったが,今回EASの適応を満たし,左耳にEASを施行した.
症例2:53歳女性.20代後半から左の難聴を自覚し,2年後に右の難聴も自覚した.ステロイド加療により一時的に症状改善するも,徐々に難聴は進行した.右の聴力がEASの適応となり,右耳にEASを施行した.インプラントはMED-EL社CONCERTO FLEX24を,オーディオプロセッサはDUET2を用いた.このインプラントは,先端が細くしなやかになっており,蝸牛挿入時の低侵襲性が見込まれる.ガイドライン通り,蝸牛開窓は低侵襲な正円窓アプローチにて行い,蝸牛神経の保護のため術中,術後にステロイドの静注を行った.術後評価は,純音聴力,語音聴力は67-S,CI2004で評価した.両症例ともEAS装用下にて純音聴力検査,語音聴力検査で術前と比較し改善を認めた.また装用者のアンケートではどちらの症例でも満足の得られる結果となった.
EASは海外ではその有用性は認められ,本邦でもEASにより良好な聴取能の取得の結果が報告されている.
今回我々はEASの2症例を経験し良好な聴力を得られた.今後はさらに症例数を重ね,その有効性や効果について検討を重ねていきたい.
2016/06/23 18:06〜18:48 P4群