第78回 耳鼻咽頭科臨床学会 総会・学術講演会

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【序言】家族歴のある両側進行性感音難聴例で遺伝性難聴は重要な鑑別診断である.後天性,進行性の場合は左右の難聴の発症時期,進行が異なる場合もあり,初めは一側性難聴と診断された後に両側性難聴となって難聴遺伝子変異が見つかる症例もまれに経験する.今回我々は母親が若年発症の両側感音難聴で,男児が一側性変動性難聴を罹病したことを契機に家族で難聴遺伝子検査を希望し,次世代シークエンス(NGS)により母親にのみEYA4遺伝子変異を認めた症例を報告する.
【症例】44歳女性,12歳男児.
【病歴・経過】母は9歳頃から両耳鳴と難聴を自覚,35歳時にめまい発作を伴い両側難聴が急速に進行しその後も難聴は緩徐進行していた.補聴器買い換え目的でX年9月に初診,聴力は右72.5 dB,左70.0 dB,最高語音明瞭度は右80%,左50%,OAEは両側解発不良だった.男児は幼少期から両側耳鳴を自覚していた.X-3年1月に突然のめまいと左難聴(左中高音漸減型感音難聴で4分法62.5 dB)があり,近医で突発性難聴の診断でステロイド治療を受けるも効果はなく,その後感音難聴が変動した.患者希望で当科受診.ASSRで左2 kHz,4 kHzの閾値上昇,DPOAEで2 kHzより高音が解発不良,ABRで左潜時延長を認め左内耳性難聴と診断した.母子とも側頭骨CTは正常,他に家族歴はなかった.男児,母と健聴の父でNGS解析を行い,母のみEYA4遺伝子のフレームシフト変異がヘテロ接合体で認められた.
【考察】家族内に複数の難聴者がいる場合は共通する遺伝子変異の存在が考えられがちだが,本症例のように,必ずしも同じ変異が見つかるとは限らず,十分な病歴の精査と遺伝子検査前カウンセリングが重要である.本症例では家族歴がなくde novo変異の可能性もあるが,何らかのgenetic backgroundが影響している可能性も否定できない.現時点で男児の難聴の原因は不明でその解明には追加解析を要する.両親と男児に今後の経過観察の必要性を十分理解していただいた.

2016/06/23 18:06〜18:48 P4群

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