中耳腔の炎症や貯留液の炎症産物によって鼓膜線維層が障害され,菲薄化した鼓膜が陥凹し中耳腔の内側壁に接着する鼓膜弛緩症(atelectasis)は,滲出性中耳炎の後遺症としてときどき遭遇する.炎症を起こさず,聴力の低下をみとめない症例に対しては経過観察される場合が多いが,一部に癒着性中耳炎や真珠腫性中耳炎へ移行し,治療に苦慮する症例も存在する.
そこで当科では,2014年1月からatelectasis症例に対して,経外耳道的に鼓膜を全層で挙上し接着している部分を明視下に持ち上げた後T-tubeを挿入する経外耳道的T-tube留置術をおこなっている.今回,短期的な経過観察ではあるが,良好な成績が得られたので報告する.
対象は,2014年1月から2015年12月までに,当科で経外耳道的T-tube留置術をおこなった小児atelectasis症例10耳.年齢は4~17歳,平均9.5歳,中央値9歳であった.術後の状態は,すべての症例で滲出液の貯留はなく,陥凹(接着)していた鼓膜は持ち上がっていた.術前後の聴力は,10耳全ての症例で改善がみとめられた.10耳中4耳で術後10~11ヵ月でチューブの自然脱落がみとめられた.
経外耳道的T-tube留置術は,通常の経鼓膜的チューブ留置術に比べて手術時間や手技においてやや手間がかかるものの,菲薄化し陥凹・接着している鼓膜を明視下に安全に挙上できることや度重なるチューブ留置による鼓膜への影響(穿孔,石灰化)を最小限にとどめることができる可能性などの利点が考えられる.短期的な成績ではあるが,術後は全ての症例において接着していた鼓膜は挙上され,聴力の改善もみとめられた.今後は症例を増やし,チューブ脱落率や長期にわたる鼓膜所見や聴力成績を検討していきたい.
2016/06/23 17:30〜18:12 P1群