側頭骨は耳小骨,内耳,顔面神経をはじめとする重要な構造物が3次元的に非常に複雑に位置しており,従来の紙媒体やビデオでの学習では限界があった.モーションコントロールカメラはカメラの動きをコンピューターにインプットし,同じ動きを何度でも繰り返し高精度に再現できるようにしたシステムである.今回我々は解剖撮影用に独自に製作したモーションコントロールカメラを用いて段階的に削開した側頭骨を撮影し,実際の手術のように複数の方向から3Dで観察することができる教材を製作したので報告する.
側頭骨の解剖は,1.皮弁を挙上,2.側頭骨を露出,外耳道皮膚を除去,3.鼓膜を除去,4.後上方の骨性鼓膜輪を削除,5.乳突削開を開始,6.乳突洞開放,7.上鼓室開放,8.後鼓室開放,9.外耳道後壁,scutumを削除,10.キヌタ骨を摘出,11.ツチ骨頭部を摘出,12.前鼓室開放,顔面神経を剖出,13.三半規管を剖出,14.三半規管を開放,15.前庭を開放,アブミ骨を摘出,16.内耳道硬膜を露出,17.内耳道硬膜を開放,18.後頭蓋窩硬膜を開放,前庭神経を除去,19.中頭蓋窩硬膜を開放,蝸牛神経を除去,ツチ骨を摘出の順で行った.撮影は外耳道軸を中心に前方に10度,後方に10度および20度,頭尾側に15度ずつ傾斜させた計12方向から3D画像の撮影を行った.撮影した画像を元に,App Storeの医療用アプリであるmedical KOS内のコンテンツとして側頭骨レイヤー解剖教材を製作した.
解剖は慶應義塾大学医学部クリニカルアナトミーラボにおいて「臨床医学の教育及び研究における死体解剖のガイドライン」に沿って未固定のご遺体を使用し実施した.慶應義塾大学内での倫理委員会の承諾は得られている(承認番号20070026).著者らは申告すべき利益相反を有しない.
本研究の場を提供していただいた医学教育統轄センター長平形道人教授,解剖学教室相磯貞和教授,CAL委員長今西宣晶准教授にこの場を借りて深謝いたします.
2016/06/23 17:30〜18:12 P1群