耳科手術の基本は顕微鏡下でのドリルによる骨削開と耳小骨の操作である.これらの手技を習得するにはヒト側頭骨を用いた実習がもっとも有用であるが,その入手は必ずしも容易ではない.人工側頭骨は入手が容易であるが,残念ながら質感は実際の骨とは異なり,また軟部組織や耳小骨可動性の再現性は不十分である.近年,ヒツジやブタの側頭骨を用いた耳科手術トレーニングの有用性が報告されている.しかしながら,これらの動物は乳突腔がなく,鼓室のすぐ尾側が頭蓋底にあるため,顕微鏡下でのドリルによる骨削開はほとんど行えない.また,鼓室に至るまでのランドマークも乏しく,耳小骨が失われてしまうことも稀ではない.今回我々は,耳科手術トレーニング方法として,ブタ側頭骨を用いて外耳道の吻側で頬骨弓を削開する前方アプローチを開発したので,その実際を提示する.
ブタの軟骨部外耳道から頬骨弓表面の組織を切除,皮質骨を露出する.頬骨弓を乳様突起に見立てて外耳道を目印として削開を進めていく.外耳道皮膚を追跡しながら深部に削開を加えていくと,外耳道の背側に骨にうずもれた外側半規管隆起が確認できる.この吻側でさらに深部に削開を進めると鼓膜とツチ骨外側突起が外耳道から確認できる様になる.これを目印に上鼓室を開放すると,ツチ骨,キヌタ骨を確認することができる.ツチ骨頭,キヌタ骨を除去すると,顔面神経,鼓索神経,鼓膜張筋を確認することができる.通常の手術とは術野が逆向になるが,道具の使い方を習得するには有用であった.
術野の向き以外に,軟部組織の脂肪が多く骨皮質の露出にやや手間取る点,頬骨弓は骨髄が豊富で中耳炎耳とは削開の感触が異なる点などの問題点はあるが,ブタ頭部は食品として容易に入手可能である点が大きな利点であり,耳科手術トレーニングの教材として有用である.
2016/06/23 17:30〜18:12 P1群