喉頭外傷は喉頭腔外より受傷する喉頭外損傷と喉頭腔内より受傷する喉頭内損傷に大別される.喉頭外損傷には開放性喉頭損傷と鈍的喉頭損傷があり,喉頭内損傷は医原性喉頭損傷・喉頭熱傷などが挙げられる.一方で開放性喉頭損傷は我が国では比較的まれな疾患である.今回我々は統合失調症患者の自傷による開放性喉頭損傷の1例を経験したので,若干の文献考察とともに報告する.
症例は統合失調症で内服加療中の85歳女性.施設に約10年間入所中.自室にて包丁で前頸部を自傷し当院に搬送された.来院時,意識レベルは清明で眼瞼結膜貧血はなかった.甲状軟骨前方の前頸部皮膚は,正中および正中より2 cm右側に2ヵ所,垂直方向に5 cm程度切開されていた.喉頭ファイバースコープ下の観察では左披裂喉頭蓋ひだ内側から左仮声帯にかけて暗赤色の腫脹を認めたが,両側声帯の可動性は良好であり,気道は保たれていた.頸部単純CTでは舌骨レベル前頸部軟部組織内に気泡を認め,舌骨の内外に高吸収域の軟部影があり血腫が疑われた.同日,創の状態確認と修復のため手術を行った.気管切開後,創部の血腫を十分に清掃し創部を確認すると,甲状軟骨は上甲状切痕直上より垂直方向に2ヵ所,また右板正中で垂直方向に1ヵ所切断されていた.甲状軟骨の離開部を4-0ナイロン糸で縫合し閉創した.次いで喉頭直達鏡による観察を行った.左披裂喉頭蓋ひだ内側に粘膜下血腫を認めるのみで粘膜損傷はなかった.術後創傷治癒は良好であった.術後8日目より間接嚥下訓練を開始した.しかし,受傷前より入所中の施設においても誤嚥を繰り返しており,肺炎の既往もあり,元々嚥下機能が悪かったと考えられ,また統合失調症があり本人との細かい意志疎通が難しく,短期間で嚥下訓練の十分な効果を得ることはできなかった.誤嚥性肺炎の予防のためカフ付き気管カニューレを挿入した状態で,術後29日目に長期にわたる嚥下リハビリ目的に転院となった.
2016/06/24 9:00〜9:50 第3会場