第78回 耳鼻咽頭科臨床学会 総会・学術講演会

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【はじめに】下咽頭梨状陥凹瘻は第3,4咽頭囊または鰓後体の遺残と考えられている先天性の疾患であり,その根治的治療は瘻管全摘術である.しかし炎症性瘢痕や度重なる切開排膿などによる周囲組織との癒着により,瘻管の同定が困難なことがある.その結果,瘻管摘出後の再燃は稀ではない.また,小児期の発症が多く,治療中の肉体的,精神的な負担を軽減することへの配慮も必要である.本疾患の治療として,近年トリクロール酢酸による経口的化学焼灼術が報告されている.今回我々は当科で同手術を5例に施行したので報告する.
【対象】当院にて2005~2015年の間に治療した下咽頭梨状陥凹瘻10例のうち経口的化学焼灼術5例,瘻管摘出術5例につき検討した.
【経口的化学焼灼術の術式】全身麻酔下にて直達喉頭鏡を左梨状陥凹に挿入し,梨状陥凹先端部に存在する瘻管開口部を確認した.次に,10%のトリクロール酢酸をしみ込ませた小綿球を瘻孔開口部に約20秒間押し当て,焼灼した.瘻管開口部を中心に周囲の粘膜が白色に変性し,生理食塩水をしみ込ませた綿球で拭っても変性した状態が変わらないようになるまで焼灼した.
【症例】発症年齢は2~42歳で男性5例,女性5例であった.発症部位は全例左側であった.平均入院期間および経口摂取開始時期は経口的化学焼灼術例は8.2日と1.6日,瘻管摘出術例は22.4日と19日であった.再発に関しては瘻管摘出術施行例で1例のみ認めた.
【考察】従来の瘻管全摘術の場合,縫合不全を防ぐため術後1週間前後は経口摂取を禁じており入院期間も長期間要する.それに比べて経口的化学焼灼術は深刻な合併症はなく入院期間も短かった.今回化学焼灼術を施行した5例ではいずれも再発を認めず,焼灼術により瘻管が閉鎖したことが示唆できる.侵襲が少なく頸部瘢痕を残さない同手術は治療の第一選択肢とすべきと考えられた.

2016/06/24 9:50〜10:30 第2会場

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