第78回 耳鼻咽頭科臨床学会 総会・学術講演会

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【はじめに】副鼻腔炎や囊胞性病変により頭蓋底の骨が菲薄化していることは少なくないが,通常硬膜は保たれており,髄液漏をきたすことはまれである.今回,高度の頭痛を訴える蝶形骨洞炎の症例において,病変の開放時に髄液漏をきたした症例を経験した.
【症例】33歳,男性.3日前からの強い頭痛を主訴に前医を受診した.CTで右蝶形骨洞炎を認め,当院を紹介受診した.右嗅裂には膿性鼻漏を認め,CTでは右篩骨洞と蝶形骨洞の炎症所見があり,蝶形骨洞には含気を認めなかった.強い頭痛を訴えるため髄液検査を行ったが,細胞数の上昇なく髄膜炎は否定的だった.入院のうえ,抗生剤点滴を4日間行うも頭痛は改善せず,鎮痛剤の注射剤を頻回に必要とした.保存的治療による改善は困難と考え,緊急で全身麻酔下に右ESSを行った.篩骨蜂巣を開放後,篩骨洞側に膨隆した蝶形骨洞前壁を穿破・開放すると,内部から多量の膿汁が排出された.吸引管で強い陰圧がかからないように,排出された膿汁を慎重に吸引し,開放部を可及的に開大した.その後,洞内を観察すると貯留液は膿汁と漿液が混じったものであった.洞外側の貯留液は拍動しており,慎重に同部を吸引すると拍動性に漿液性の液体が漏出していた.髄液漏と判断し,有茎の鼻中隔粘膜弁とフィブリンのりによる閉鎖を行った.術後はベッド上での安静を数日間行い,経過良好のため術後8日で退院とした.術後3年半の現在,開放副鼻腔の状態は良好で,髄液漏の再発を認めていない.
【まとめ】ESS術中に髄液漏を確認した蝶形骨洞炎の症例を経験した.推察するに先天的に蝶形骨洞側壁に微小な骨欠損があり,今回の蝶形骨洞炎による高度の内圧により同部の硬膜が破綻して,髄液漏をきたしたと考えた.頭痛があり,CTで頭蓋底に骨菲薄化部位がある場合には,極めて低い確率ながら病変の開放により髄液漏をきたすことがあるため,術前にその可能性を患者に伝えておくことが望ましい.

2016/06/23 9:00〜10:10 第3会場

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