第78回 耳鼻咽頭科臨床学会 総会・学術講演会

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Gradenigo症候群は1904年にGradenigoによって報告された中耳炎,三叉神経痛,外転神経麻痺を3主徴とする症候群である.中耳に生じた炎症が錐体尖部へ波及し,三叉神経刺激症状および外転神経麻痺症状が出現する.原因は中耳炎から波及した錐体尖炎とされるが外傷性によるものの報告もある.中耳炎は急性あるいは慢性,いずれの可能性もあるものの急性が圧倒的に多い.錐体尖炎の発生頻度は耳性頭蓋内合併症の数%とされており,三叉神経痛と外転神経麻痺を合併したものはさらに少なく,非常にまれな疾患といえる.今回我々はコントロール不良の糖尿病を合併したGradenigo症候群の1例を経験したので,若干の文献的考察を含め報告する.
症例は51歳男性.主訴は左耳漏,左側頭部痛,複視である.20XX年8月耳痛を主訴に前医を受診した.急性中耳炎の診断にて内服加療するもその10日後より耳漏が出現した.15日後には複視も出現し,22日後に当院紹介受診となった.拍動性耳漏を伴う中耳炎,三叉神経第1枝領域の疼痛および左外転神経麻痺を認めた.CTで鼓室,乳突洞および錐体尖まで軟部陰影を認め,MRIでは同部位に錐体尖の炎症を示唆する所見が認められた.Gradenigo症候群と診断し抗菌薬とステロイドの投与を開始したところ,耳痛,頭痛は徐々に軽快し,短い入院期間で良好な経過が得られた.退院後外来観察期間3ヵ月で外転神経麻痺は治癒し,現在のところ症状の再燃は認めない.
近年,抗菌薬の進歩により急性中耳炎の合併症は減少傾向にあり,本症候群は極めてまれな疾患となりつつある.しかし基礎疾患を有する症例や高齢者では,中耳炎の頭蓋内合併症は時に重篤となり得るため注意が必要である.

2016/06/23 9:50〜10:50 第2会場

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