第78回 耳鼻咽頭科臨床学会 総会・学術講演会

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鼓索神経は顔面神経管内では運動神経線維と共に走行し,茎乳突孔の数mm上方で顔面神経管より分かれ,通常は鼓索神経管内を上行する.その後は鼓索小管鼓室口を通り,鼓室内に入ることが知られている.しかしながら,鼓索神経管内を通らず,外耳道後壁の溝を走行する症例も稀に存在する.今回我々は慢性穿孔性中耳炎の術中に鼓索神経が鼓室内から鼓室外に至り,外耳道後壁を走行する症例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.
症例は68歳女性.左耳の鼓膜後半部を中心とした穿孔が存在し,左慢性穿孔性中耳炎の診断にて左鼓室形成術を施行した.耳後部切開を行い,側頭筋膜を採取後,通常の手順どおり外耳道後壁皮膚の剥離挙上を行った.鼓膜輪の方向へ剥離を進めて行く途中,外耳道後壁の中央部からやや下方にかけて白く細い索状物を認めたが,これを温存しながら剥離を進めた.この白く細い策状物を周囲組織から剥離し,その走行を追った結果,最終的にツチ骨とキヌタ骨長脚の間を走行しており,鼓索神経であることが明らかとなった.本症例においては術中に策状物が鼓索神経である可能性も想定し得たため損傷することなく神経を温存することが可能であったが,不用意な外耳道皮膚の剥離操作を行った場合,神経の切断や過進展を生じる可能性がある.
鼓索神経は通常鼓室内を走行し,鼓膜輪の外側には存在しないものと認識しながら手術操作を行っているが,本症例のように稀に鼓室内から鼓室外へ至り外耳道後壁を走行する症例があるため,外耳道後壁の剥離操作には十分な注意が必要と考える.術中の動画を供覧し,渉猟し得た範囲での文献的考察を行う.

2016/06/23 9:00〜9:50 第2会場

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